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月替わりコラム

道の果てから

Vol.5('00.2) ぼくのまち

 今回は、僕が今住んでいる街のことについて書きます。
 僕が住んでいる街は、埼玉県の蓮田というところです。
 一時新幹線の始発駅だった街、大宮市の北側に位置する、人口6万人余りの都市です。上野から東北線の電車で37分。沿線に田んぼが広がりはじめたところ、そこが蓮田です。駅から5分も歩けば畑が見え、15分歩くと田園風景です。夏はカエルの鳴き声が響き渡り、冬には川に霧が立ち込め、遠くに富士山や秩父連山が眺められます。距離的にも都内からさほど離れていないし、それでいて自然の移り変わりも楽しめる、そんな街です。

 僕はその蓮田の駅近くに住んでいます。蓮田駅は東北線が開通した明治時代から110年余りも続く歴史の深い駅で、駅周辺には古くからの商店街が、時々入れ替わりながらも業を営んでいます。
 先日久しぶりに駅前商店街を自転車で巡ってきました。最近はロードサイド型商業施設なるものが流行しているようで、ご多分にもれずここでも駅前の空洞化が進行していました。特に駅前を通る国道122号の沿道はシャッターを閉めている店がほとんどです。道が狭いところへ交通量が激増し、歩行者が安心して歩けなくなって客足が途絶えました。それ以外でも閉店している店や、更地になった区画がいくつか見られます。そこにたまに新しいビルが建っては、新しい店がオープンする、そんな感じです。市の中心地でありながら、あまり栄えているとはいえない状況です。駅前に大型スーパーが1軒ありますが、それとて以前のような勢いがなくなってきています。
 隣の東大宮まで約4km。東大宮は大宮市の北外れにあり、駅ができたのも昭和30年代後半と新しいのですが、明らかに東大宮の方が活気があります。駅前には居酒屋が何軒もあり、蓮田にはないゲームセンターが3軒もあります。古本屋も2軒あります。マクドナルドだけでなくミスタードーナツやケンタッキーなんかもあります。うらやましいです。
 一方蓮田は東大宮と違って快速が止まります。街の歴史も古いです。しかし、東大宮に比べると駅前は実にお寒い状況です。ゲームセンターは駅前にはないし、酒屋は多くても居酒屋が少ない。それもオヤジ向けの店ばかり。マクドナルドやモスバーガーはあるけれど、どちらも開店したのは東大宮よりも後。娯楽施設はパチンコ屋1軒、カラオケボックス1軒がせいぜいというところ。なぜかダンスホール付き喫茶店があったりする。どうして東大宮とこうも差が付いてしまったのでしょう。街の中心なのに。快速停車駅なのに。

 その疑問の回答がなかなか解けず悩んだ挙げ句、僕は駅周辺の地図をもう一度見回してみました。そこで1つの事実に気が付きました。それは、

 「東大宮には、大学のキャンパスがある」

ということでした。
 駅からかなり離れたところに、そのキャンパスはありますが、路線バスも運行されていて、一応東大宮が最寄り駅になっています。その学生をターゲットにして、ゲームセンターや居酒屋が店を開いていったのでしょう。
 一方の蓮田には、企業の工場はあっても(現在は移転・閉鎖)大学のキャンパスがなかった。それで街の作りも労働者向けになってきたのでしょう。
 ともかく街の作りが若者向けでなかったがゆえ、地元の仲間が集まっても入る店がなく大宮に電車で遠征したり、オヤジの集まる店の片隅でおとなしく飲んだり、そんな思いをしてきました。他の街に住む友達にその地元の自慢の店に連れていってもらったりしたときに、僕の地元にはこんな自慢できる店があるのだろうか、と思っていました。

 しかし、これからは、必ずや若い街に変わっていくと思います。なぜなら、ぼくのまちにも、小さいながら医療大学のキャンパスがオープンすることになったからです。駅前通りには今後、その学生相手の店が出来てくることでしょう。これで他の街の友達を誘って、飲み会ができるようになると思います。
 そしてもう1つ。来年春に浦和美園まで開通を予定している埼玉高速鉄道(営団南北線の延伸区間)が、岩槻を経て蓮田まで延伸することが決定しました。先月末の運輸政策審議会答申によるものです。地下鉄の路線が埼玉県内を北上し、ぼくのまちまでやってくるのです。ただし地下鉄に合わせた街作りはこれからというところです。そして開業目標は平成27年、15年も先の話です。僕も45歳になっています。それまでこの街にいるかどうか分かりませんが、いずれにせよ、今後15年間でぼくのまちがどう変化していくことか。その変化を見続けたいと思います。

 今回のコラムには写真を付けました。文章だけでは分からない、ぼくのまちの表情を、写真の方でもお楽しみください。それでは。

平成12年2月20日

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